こんにちは!心理カウンセラーの松田ちかこです。
皆さんは「どうせやっても無駄・・・」と思うことはありますか。
この仕事を頑張っても何も変わらない・・・
この人に何を言っても変わらない・・・
自分ではこの状況を変えられない・・・
こんな風に思うことがあれば、もしかすると学習性無力感に陥っているかもしれません。
学習性無力感
人間の認知は経験の積み重ねによって形成されます。
経験をすると、その出来事がどんな意味を持っているのかを認知し、感情が起こります。しかし、認知を誤ると、感情や行動にも影響してしまう場合があります。
ストレスに曝された時も、それを回避しようと努力し、結果を得ることで「ストレスは回避できる」ということを認知しますが、回避できないストレスに曝され続けると、「自分は無力だ」と認知し回避する努力を諦めてしまうようになります。
「無力だ」という誤った認知が形成されることで「どうせやっても無駄・・・」という思いが引き起こされているのです。
こうした現象を学習性無力感といいます。
学習性無力感(learned helplessness)とは
ポジティブ心理学の主導者の一人であるセリグマン(Seligman,M.E.P)による不快刺激を避ける行動についての研究において犬を被験体とした実験によって発見された現象で、苦痛等に対処する可能性が感じられなくなった際には、無反応・無気力状態が学習されるというものです。
この実験は2部構成で、第一実験では以下の3つの条件群に分けて、犬をハンモック状の装置に固定して弱い電気ショックを与えます。
第一条件群:ボタンを押すと電気ショックが止まる
第二条件群:何をしても電気ショックは止まらない
第三条件群:ただハンモック状の装置に固定されているだけで、電気ショックは与えられない
第二実験は、第一実験終了から丸一日以上間隔を空けてから行われ、第一実験と同じ犬を被験体として、中央に仕切りのある装置で実験をします。
この装置は、床の左半分に弱い電気ショックが発生する仕掛けが施されていて、その電気ショックは1回につき50秒間流れます。犬は自由に動き回れるようになっていて、中央の仕切りを飛び越えて右側へ移動することで、電気ショックを回避することができます。
この第二実験での犬たちの反応は、第一実験における各条件で何が学習されたかによって大きく異なっていて、第一条件群と第三条件群の犬は中央の間仕切りを飛び越えて電気ショックを回避し、第二条件群の犬は電気ショックが流れているにもかかわらず、全く動こうとしませんでした。
セリグマンは各条件群の犬の認知の違いに着目し、
第一条件群:第一実験で電気ショックを止めることができると学習し、それを第二実験でも反映させ、自ら能動的に電気ショックを回避することができた
第二条件群:第一実験で何をしても電気ショックを止めることができないという自らの行動への無力感を学習してしまい、それが第二実験にも影響を与え、電気ショックに曝されても、何の行動も起こさなかった
第三条件群:第一実験では電気ショックは与えられず固定されていただけで、特に何かを学習することはなく、第二実験への影響はなかったため、初めて経験した電気ショックに対して、その場で回避するための行動を学習した
と実験結果を説明しました。
第二条件群の犬が、いくら足掻いても逃れられないと感じ、無力感を学習してしまったことで、それが第二実験で転移され、電気ショックを流されても動くことなく、抑うつのような状態が見られるようになったという結果から、セリグマンは“学習された無力感“という意味の『学習性無力感』を提起しました。
その後、人間を対象にした実験(電気ショックではなく不快な音を使った実験)でも同じような傾向がみられ、人間にも起きる現象だということがわかりました。
このように、“自分自身で問題を解決することができない“と自分の行動と結果が随伴しないということを学習してしまうと「結局何をやっても無駄なのではないか」という認知になり、物事に対して誤った判断をしてしまうことで、第二条件群の犬のように回避行動をとらないという状態になります。この状態はうつ病とも関連します。
無力感は先天的なものではなく、いくら行動しても望む結果が得られないという経験の積み重ねによって後天的に獲得されるものなのです。
対処
学習性無力感から抜け出すためにはどうすれば良いのでしょうか。
行動と結果が結び付かないことが原因となっているので、そこが結び付くようにする必要があります。
ポイントは次のとおりです。
・抑圧する人や環境から離れる
・できなかった原因を明らかにする(原因がいつも同じとは限らない)
・できる方法を考える/教えてもらう
・できている事に目を向ける
・目標設定をスモールステップ化し達成できるようにする
・自分が行動することで目標を達成できたなどの成功体験を経験し、行動と結果を結びつける
そして、
・ポジティブな姿勢を身につける
ということができると、予防にも繋がります。
最後に
人との関わりの中で生きている私たちは、日々ストレスと向き合っています。ときにそれは回避し難い、高圧的なものであることがあります。いじめ・パワーハラスメント・モラルハラスメント・虐待・DV・・・こうした理不尽なストレスから身を守る術を身につけておくことは、今の世の中を生きていく上で必要なスキルかもしれません。
また、知らないうちに周囲の人に対して無力感を学習させてしまっていないか、ということも同時に考えられると良いと思います。
子どもの教育や後輩の指導、社員の育成などにおいては特に、行動に意味を感じられるような、ポジティブな関わりによって導くことで、これから先の可能性が広がっていきます。
自分のことも周りの人のことも、否定せず、抑圧せず、のびのびと生きていきましょう。
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<参考>
『学力と学習支援の心理学』(市川伸一)
『カウンセリング技法』(メンタルケア学術学会監修)